最高裁判所第二小法廷 昭和43年(オ)1169号 判決 1969年2月21日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人伊場信一の上告理由第一点について。
原判決が、その挙示の証拠により適法に確定した事実によると、土屋滋の本件手形振出行為は、同人の職務と密接な関連があり、かつ被上告会社の企業的活動の一環として把えうるものであつて、結局、土屋のした本件手形の偽造および交付行為は被上告会社の事業の執行についてされたものと解すべきであるとした原審の判断は、これを是認しえないわけではない。
結局、原判決には、所論のような違法はなく、所論は、採用しがたい。
同第二点について。
所論の主張は原審において主張されておらないのみならず、原審の確定した事実によれば、上告会社が無過失であるとはいえない。
所論は、採用しがたい。
同第三点について。
原審の確定した事実関係のもとでは、所論の過失をもつて重過失とはいえないとした原判決の判断は、相当である。
また、損害賠償額の算定について被害者の過失をしんしやくするかどうかは裁判所の自由裁量に属する旨の判例(当裁判所第一小法廷判決昭和三二年(オ)八七七号、同三四年一一月二六日民集一三巻一二号一五六二頁、同第三小法廷判決、昭和三九年(オ)二七二号、同四〇年五月一八日裁判集七九号八一頁)の趣旨に照らせば、その過失をしんしやくした割合も、事実審の裁量に属すると解すべきである。
それゆえ、原判決には、所論の違法はなく、所論は、結局、採用しがたい。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)